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泣いて笑って、野菜の話

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2015年 06月 28日

第1回 佐藤京一さん Vol.04

◎わからないところが入るのが、なんかいいよねって


 そのときなんとなくわかったのは、植物の成長に必要だっていわれている、チッ素・リン酸・カリが、たくさんあるから大きくなるわけじゃないし、入れすぎたからまずいんでもないっていうこと。これは肥料、これは堆肥って人間がわけているだけで、土の人たち(人たちじゃないけど)は、なんも区別していない。

 だから、肥料やりすぎるとただ伸びるだけで実がつかない、という話とは何かが違うと、伊藤さんに教えてもらってわかったんだよね。土をつくるというのは、微生物を育てることに着目すればいいことが、なんとなくわかってきた。

 じゃあ、微生物を育てるためには何が必要か。俺は、たいてい人間に置き換えるんだよね。まず何が必要かっていったら、家でしょ。家っていうのは、微生物にとってなんなのかなって思ったら、ちょっとした穴があいている状態、炭とか腐蝕した有機物がある状態だよね。あとは食べ物や水。たとえば食べ物だったら、人間でも、鰹節とか昆布の出汁でつくったもののほうが、俺はカップ麺よりいいなあと思って、だから魚かすや米ぬか、稲藁などいろいろなものを混ぜている。

 うちで食べているものを、そのまま畑に反映しているみたいな感じ。科学っていうのは、わかるものは入れられるけど、わからないものは入れられないでしょ。でも、鰹節はさ、分析されていない部分も食べているわけで。そのわからないところが入るのが、なんかいいよねって。間違わないんじゃないかなと思う。

 いまわかるものしか信じないじゃない。それはちょっと、もったいない気がするんだよね。まだ、わからないものっていっぱいあるからさ。



新規就農したころは小さかった子どもたちも、いまでは、高校2年生、中学3年生、小学6年生。

クラブや学校の部活などに忙しい毎日をおくっているという。

こうした活動にときどき親も参加する機会があるそうで、そういう機会でも京一さんは信念を曲げたりはしない。

そんな父親の姿に、ときどき子どもが反発することもあるという。


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◎みんなと横並びっていうのは顔なしのようなもの


 子どもも年頃になってくると、目立つの嫌がるでしょ。たとえば、娘がいまサッカーをしてるんだけど、クラブでときどき親の意見を求められることあるんだよね。そういうときには、平たいことを言えばいいわけさ。でもさ、俺はどんなときでも、はばかりなく自分の意見を言いたい。意見を言うと目立つから、子どもはそれが嫌なんだよね。

 ほかにも、選挙になると応援してくださいって電話がかかってくるでしょ。知り合いからもかかってくるんだけど、「その人には入れられない」って俺はっきり言うんだよね。そしたら娘に、「そんなことを相手に言う必要はないんじゃないの?」って。子どものほうが常識あるのさ。

 でも、俺は顔のない生き方は嫌だからね。みんなと横並びっていうのは顔なしのようなものだと俺は思うわけさ。

 ただね……、生きづらい。日本は日本のスタイルがあるから、自分の意見を言うのは、すっごい生きづらい。どこでもぶつかる。俺ひとりでも言わないと変わらないし、こういう人生で50歳まできたからもういいやって思って。ぶつかってもあとからわかってくれることもあるしね。

 ただ、農家っていうのは、俺の考えを実現できるんだよね。いま不満がぜんぜんないの。世の中がどうであれ、俺は俺でいられる職業なのさ。

 だから若い人に、「本当に農家って最高の仕事だよ」って言ってるんだ。すごくいい職業だねって。



「農家っていうのは、俺の考えを実現できる」。

そう語る京一さんは、5年ほど前からワイン用のブドウ栽培をはじめた。

ブドウの栽培は失敗なくしては通れない道、非常に難しいものというが、

ここでも信念を曲げずに、京一流を貫こうとしている。

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◎無農薬で育てたい


 野菜の栽培もやっていくけれど、いずれはワイン用のブドウに移行するつもり。俺の代は、ブドウとアスパラとニンニクで終わると思う。ただ、もし子どもがやるっていったときには、増やすのはブドウだと思う。

 俺さ、無農薬で有機で野菜つくっているでしょ。だから、ワイン用のブドウも無農薬で育てたいと思っているのね。

 でも、以前に「日本の多湿な気候では、無農薬なんかできっこない」みたいな言われ方をしたことがあったんだ。有機栽培だって認定された防除剤があって、それはかけているんだよね。

 でも、そういう防除剤すら俺はかけたくないと思っている。

 それはなぜかっていうと、子どもに時間をかるために就農したのに、そんな防除をやっていたら時間がもったいないから、俺はブドウを立派に育てて病気になんないようにしてやりたい。

 きっと「それでは喰っていけない」って、みんな思うだろうけど、俺は無農薬でやりたいって、やっぱり思うんだよね。

 まあ、でもね、ワイン用のブドウは病気に弱いわ。つくってみてわかったけど、本当に弱い。弱いけど、でも何かがあると思う。たぶん常識的にやっていることが何か間違っているから、みんなできないって思っているのかもしれないし。もし、無農薬でできる答えがあるとすれば、いままではどこかで間違ったことをやっているということでしょ。答えがあるとすれば、それを止めればいいという話。ブラックボックスがどこかにある。

 それを見つけちゃったときには、みんなに言うからね。成功したときに。アハハハ。


京一さんは、いたずらっ子のような顔をして笑った。

夕暮れどきの冷たい風がハウスの中に入ってくると、

素早く走っていて扉を閉め、また戻ってきては種を植える。

淡々とした毎日のように感じるが、きっと畑に向かい合う中で、多くの発見があるのだろう。

もともと臨床検査技師だったという京一さんは、

日々、自分の畑でも実験を繰り返し、その積み重なりが、

年を追うごとに野菜を美味しくしているのかもしれない。


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写真・構成=來嶋路子(ミチクル編集工房)




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by nakiwarai_yasai | 2015-06-28 22:22 | 泣いて笑って、野菜の話


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